いまごろ暴れても遅いのだよ、年なし君

ウキが段階的に入る。私は軽く合わせた。
合わせはあくまで軽くするべきである。ビシッと音がするぐらい大きく合わせると、合わせ切れしたり、スッポ抜けたりする。
軽く合わせるだけで、潮流がテコの役割を果たし、充分ハリ掛かりすると私は考えている。
それに、この合わせ方は、もうひとつ、重要な意味があることを後から気づいた。

「大した引きではない。また、マナジか。たくり上げてしまおうか。いやまてよ、少し違う。やはり、竿の弾力を使おう。」
そんな考えが、私の頭の中を一瞬去来した。
三歳魚ぐらいの感じである。別に竿が立たないとか、糸鳴りがするとか、なかなか上がってこないというようなものではない。
いとも簡単にリールが巻ける。首を振っている感じは手に伝わってくるが、その抵抗は強いものではない。
リールはフジリールである。1対1のギヤ比が魚と対等に渡り合えるので、私は好んで使っている。

すぐ姿が見えた。

「なんじゃあ、コレは!」

私は思わず声を上げてしまった。
とてつもなく、でかい。ガボン、カボンと魚体をうねらせながら上がってくる。

私は思わず、笑ってしまった。
「こいつ、アホと違うか。釣られとることを気づいとらんな。」

それなら気づかせる前に上げてしまえと、そのままリールを巻き、ゆっくりと海面に近づけた。
それでも、抵抗しない。面倒なので、空気を吸わせる前にタモ入れしてしまった。
おそらく、合わせてから、取り込みまで、30秒ぐらいであったろう。

ひどく重い。こんな重い魚を釣ったのは初めてである。
ボートの中に入れたとたん、やっと気づいたのか、やたら暴れはじめた。

「いまごろ暴れても遅いのだよ。年なし君。」
私はそういい聞かせながら、タオルで彼の顔をすっぽり包んでしまった。

スカリの中でも彼は大人しかった。最初は腹を見せて浮き上がっていたが、やがて窮屈そうにその中で泳いでいた。

時計を見たら4時半を少し過ぎている。
今日はもうどうでもよくなった。
しかし、まだ日没まで時間があるので、そのまま釣っていたが、根掛かりしたので、いい加減に竿をあおっていると折れてしまった。
予備の竿も持ってきていたが、納竿することにした。

ボートを浜に上げて魚を絞めていると、地元の人が犬の散歩に来ていて、
「なんじゃ、このツエは。漁師顔負けやな。」と言っていた。

2回目のボート掛かり釣りでもう、こんなものを釣ってしまった。来年でいいと思っていたのに、早すぎる感があった。
とても、ラッキーだったと思っている。

合わせが弱い方がいいのは、掛けた魚を簡単に取り込める利点がある。
この間、御座の堤防で46cmのグレを掛けたときも聞き合わせだった。
8月に筏で49cmと57cmを釣ったときも強く合わせていない。
数年前に、立神で60cm級を食わせた時、相手は気づいていなかったのに、後から強く合わせを入れたので、浅瀬に突っ込まれ、ハリス切れしたことがあった。

合わせはあくまで弱く、危険を感じさせる前に取り込む。

これは、大チヌを安全にかつ簡単に取り込むためのコツである。

ちなみに、今日の年なしは57cm、3kgであった。
重さにおいては今まで釣ったチヌの中で一番である。


新釣行記 13に続く

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