進水式

ボートを買ったことは先に書いた。
進水式は英虞湾で行うことにした。やはり、波の穏やかな湾がよかろうという理由である。
出港はSセンターと決めた。桟橋もあるし、何度も行っているから咎められないだろう。

9月上旬、Sセンターに着くと、私はボートを車の屋根から降ろした。
なんら、苦にならない重さである。そのまま桟橋に持って行き、浮かべてみると実に調子よく浮く。
荷物を積んで、漕ぎ出した。心地よく海面を滑っていく。
船が通るとやはり揺れるが、その時だけで、普段は平気だ。
私は横山島めがけて漕ぎ出した。多徳島との間に船を漕ぎ入れると、やたら潮の流れが速く、危険を感じたので速やかに脱出した。
Uターンすると、釣り筏で2人竿を出している。

今日の目的はこのボートで筏掛かり釣りが可能かどうかである。

適当な筏を見つけると、私はロープを掛け、掛かり釣りをはじめた。
潮は昨日の雨で相当濁り、2枚潮になっている。どうせ釣れないだろうし、今日は釣ることが目的でない。
もうひとつの目的はここで釣る許可を取ることである。

しばらくすると、この筏の持ち主が船で現れた。
私は出来るだけ、丁寧に笑顔で話しかけた。

「すいません、釣らせてもらっています。じゃまだったら止めますが。」
「ええんな、ええんな、釣ってえな。ところで、釣れるかな。」
「ありがとうございます。ブクだけですわ。ところで、ツエは居ますか。」
「うん、おる。」

そんなわけで、夕方まで安心して釣り続けた。魚はフグ以外何も釣れなかったが、掛かり釣りは充分可能なことが判明した。
今度は、大チヌを狙って奈屋浦へ行こうと思った。英虞湾は来年でよい。

年なしの奈屋浦

その後の休日は天候の悪い日が多かったので、御座堤防へ行っていた。

2度目のボートでの釣行は10月7日だった。

前回8月9日から、2か月ぶりの奈屋浦である。
あのころと比べるとすっかり秋になった。

私は前回の円形筏の対岸を選んだ。そこは真珠養殖のブィが無数に浮かんでおり、このブイが障害物となって船の起こす波が緩やかだと推察したからだ。
中の浜から出航し、一文字提を越え、あらら浜前のブィに向かう。           
真珠業者は貝掃除の真っ最中である。
笑顔で挨拶、そして依頼。

「すみません、ここのブィに掛けさせてもらっていいですか。」
「ああ、真珠のぶらさがっとるやつは、まずいけどな、白いやつならええに。
「そうですか、ありがとうございます。」

いつも思うが、真珠業者は気持ちのいい人が多い。英虞湾でもそうだったが、南島でも同じである。いつも、私のわがままを快く聞いてくれる。阿曽浦の人だという。家族で貝掃除をしていた。私の所から、約20m。

指定された白いブィは、無数の真珠ブィから若干離れた所に位置しており、ドラム缶型で大きく、黒い小さいブィが2個隣に付いていた。真珠とは関係がないようで、何の意味を成すのかわからなかったが、これらが何個か真珠ブィの周りに設置されていた。
私はそれらの中から、適当なものを選び、ボートを固定した。
魚群探知機をオンにする。水深は6.7mから7.1mの間を舟が揺れるたびに変化している。
底は岩底であるようだ。すぐ近くに磯が見える。時計を見たら、1時半になっていた。

竿は8月に57cmを釣ったときと同じ、3.3mの小継である。勿論掛け竿も使用した。
釣りはじめて1時間は魚探にも変化はなく、アタリもなかった。
ところが、2時半に魚が現れたことを知らせるフイッシュアラームが鳴りはじめたと思ったら、すぐにアタリがあり、カワハギが食ってきた。
アラームの鳴り方は初めはまばらだったが、徐々に連続的になり、3時を過ぎると、鳴り続けるようになってきた。
                                               

しかし、カワハギは2枚釣れただけで食いは悪く、餌が残るようになってくる。
ふと、気がつくと、5艘ぐらいいた貝掃除の船が、1艘も居なくなっている。
私は、ある予感がした。貝掃除しているときチヌはその下にいるが、船が居なくなった今、私の撒き餌に寄ってくるのではないか。…

そう考えていると、アタリが頻繁に出るようになり、キュウセン、フグ、マナジと釣れる魚種が増えてきた。
とくにマナジは手のひらクラスだが、数も多いようで良く引く。しかし、リールを巻くのが面倒なので、たぐり上げて取り込んでいた。3枚連続してあげた。餌はアケミ貝。

4時半。マナジの場合はコツッと鋭角的なアタリがあり、その後ゆっくり沈めていくカイヅそっくりなものであったが、それとは異なるアタリがあった。

ウキが段階的にツッツッと入っていくのである。
完全水没を待って、軽く合わせた。ハリス2号、餌はアケミ貝だったと記憶している。

新釣行記 12に続く

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