台船前

次の休日台船前へ釣行した。
佐渡氏も来たがっていたが、彼は出張だった。

今回はボートを出さなくていいから、気が楽であった。

ああいうものを車の上に積んで、道路を走るのは気を遣うものである。
ロープのかけ方が甘くて、車上からずり落ちでもしたら、大事故になりかねない。
それに、いくら20kgしかないと言っても、積み降ろしには時間も体力も使う。

ボートを持っているからといって、いつもそれで行く必要はない。岸で釣れなくなったら、出せばいいだけのことである。岸から釣れるのであれば、それに越したことはないのだ。

ところが、台船前では大した釣果は得られなかった。
初めのうちは2.3枚と釣れるには釣れたが、だんだん数が減っていき、ついには釣れなくなってしまった。

佐渡氏の釣ったような大型にはお目にかかれなかった。

ただ、地元の人と釣りながらよく話をした。

釣りをしていると、よくそれを見に来る人がいるものである。
そんな人は地元の人が多く、話し込むとその釣り場の普段の様子を聞き出すことが出来る。

その人は工事関係の人で、夏にここで仕事をしていたときに、台船下にかなりの数の大型チヌが居たというのだ。
何でもアルバイトの高校生が「おじさん、ヒシないか。」と言って、騒いだぐらい群れていたという。
そのころ、目の前の堤防には多くの釣り人が居たが、誰も釣っておらず、「ここにいるのになあ。」と言い合っていたというのだ。

もっとも、その時は工事をしていたから、釣り師はここには入って来れなかっただろう。
まあ、入って来れたとしても、こんな所で釣れるとは誰も思わないだろうが。
だが、そんな何でもないようなところにこそ、チヌはいるものだと私は考えている。

来年の夏は工事をしないらしいので、楽しみだと思った。
そんな風にしていたら、今度は堤防で釣れ始めた。

紀釣会氏

私のHP掲示板に、よく書き込みしてくれる人で、紀釣会氏という人がいる。

紀州釣り歴10年になり、弟子もいるという。住まいは中勢地区で、私も以前住んでいた方向だ。

その紀釣会氏と会う機会が訪れた。インターネットで知り合った人と会うのははじめてであった。

同じ三重県内で紀州釣りをし、釣行(最も紀釣会氏は出漁と呼んでいるが)場所が似ているなら、いつかは会えるだろうと思っていたが、その日は以外と早くやってきた。

11月19日、日曜日の良く晴れた日であったと、記憶している。

紀釣会氏は先週の休日に、奈屋浦の堤防で釣っていたところ、納竿間際に隣の人に年なしがあがり、非常に悔しい思いをしたので、リベンジの意味も込めてまた、同じ所に出漁するらしい。

そこで私も奈屋浦ブィに行くことにした。もう一度だけ57cm3kgの釣れた場所に、挑戦したかったからである。

ボートを出す、中の浜の手前に、奈屋浦堤防があるので、それなら出航前に寄ればいい。

メールで氏の特徴や所持品などを聞いておき、約束時間の10時過ぎに堤防に着くと、紀釣会氏は既にダンゴを投げていた。

一応初対面の挨拶を交わすが、初対面だという感じは全くしない。
以前からの知り合いのようにスムーズに会話が進む。
思っていたより、ずっと柔和な人で、年齢は私より一回りぐらい若く感じた。

彼は、今釣りはじめたばかりだという。私も自分の釣りをしたくなったので、また帰りに寄ると言い残し、あらら浜のブイに向かった。

しかし、もうここはチヌの気配がしていなかった。マナジさえ釣れない。どうも、チヌは場所を移動したようである。

そんなわけだから、早めに納竿し、堤防へ向かった。午後4時ころだったと思う。

紀釣会氏は相変わらず釣っていた。

「いやあ、2枚あわせても50cmないかもしれませんよ。」
と彼は、苦笑しながら、スカリの中を指さすのであった。私のように何も釣れないよりはいい。

何でも、先週は今頃の時間帯に、隣で年なしが上がったので、もう少し粘るのだという。
それなら、私もつき合おうと、彼の納竿まで、見ていることにした。

彼は少し前に浮かべられた、2つの養殖筏の間めがけて、ダンゴを打っていた。投げ方はオーバースローである。
投げ込むリズムは一定で無駄がなく、投入点もほぼ狂わない。何よりも、仕掛けの回収がひどく迅速で私を驚かせた。

彼はスピニングリールの操作が実に上手く、相当なキャリァを感じさせた。
私などは今だに、タイコリールにこだわっているので、とてもこんな風にはいかない。

それに彼のオーバスロー投入法は、充分遠投に対応したものであった。

私は遠投を嫌っているので、遠投人が出没する堤防には、近寄らないことにしていることは既に書いた。

しかし、彼はそのような場所にも進んで出かけていって、釣技を磨いていたに違いない。
現在の紀州釣りはスピニングリールが普通である。また、遠投も主流になりつつあるのであろう。
私は堤防でスピニングリールを持てあまし、ボート掛かり釣りではタイコリールを使っている。遠投に背を向けている私は、もはや時代に取り残されているのかも知れない。
そんな気がした。

もっとも、今、彼はさほど遠投していない。筏と筏の間を狙って投げているのである。

自作玉ウキは魚信を伝えており、あわせると大きく竿が曲がった。

竿は綺麗なカーブを描いている。取り込み方にも、余裕が感じられる。

「たぶん、ボラでしょう。」
「いやいや、顔を見るまではわかりませんよ。」

しばらくすると、どちらかわからないまま、ハリス切れしてしまった。

「まあ、ボラと、しときましょう。」

と、お互いに言い合った。
こんな言葉の掛け合いも、昔からの釣友に言うような感じで、なんら違和感がない。

やがて黄昏時になり、紀釣会氏は納竿した。
お互いに、また会いましょうと別れを告げ、奈屋浦を後にしたのである。

ボーズ釣行だったが、紀釣会氏に会えたので、帰りの車では心中豊かだった。

新釣行記 15に続く
BACK