釣り場の開拓
 
 明けて平成七年一月中旬のことである。安乗にぶらりと出掛けると、アジを釣っている人が、サビキ仕掛けにカイヅを釣っているのを見て驚いた。落ちていかずに居残っているものがいるのである。しかもサビキに掛かるとは何ということだ。二重の驚きであった。
 
釣り雑誌に神明に堤防が出来たと書いてあったので、見に行くと成程確かに新築されていた。水深は浅そうで、堤防のすぐ側に駐車出来るのが便利だった。 秋にはサヨリ釣りで賑わったそうである。チヌの噂は聞かなかったが、夏になったら試してみようと思った。家から車で5分で着く所だから、ここで食えば結構なことだと考えたりした。

 釣り場の開拓は、釣り師にとって重要なことである。情報を聞いて行くのもそれはそれでいいが、今までだれも釣っていなかったところで、最初に自分が食わせるのは気分のいいものだ。例えば南島の94号のように。

 そういえばこの神明堤防は、入り組んだ内湾ということで、南島町の大江に共通点があるように思えた。そうなれば食うに違いない。最もこの時点では何とも予想がつかなかった。

 
しかし、夏にこの予感が見事に的中し、笑いの止まらない結果となるのである。
 

 春になった。

 安乗に四月と六月に一回ずつ釣行したが、エサ取りのアタリさえなく、チヌも食ってこなかった。


 六月に試したときには、護岸から海底を覗くと、昨年の秋に釣れた同じサイズのものがごく少数いた。しかし、動きは鈍くマキ餌にさえ寄らないように思われた。水温は上昇傾向だが、ボラが跳ねているだけで、この魚のアタリもなかった。


 七月に片田の堤防に行った。昨年十一月に二度だけ釣行し、最初に行ったときにシラが2枚釣れたことがある。当歳魚は釣れず、釣れたものも30pに近かったので、今年は少し型のいいものでも釣れないかと思ったのである。

 片田堤防は志摩半島の中ほどに位置し、外洋に面していて以前地磯だったところだ。そのせいかアイゴが多く、釣れたものは30p以上もあったので、ハエ改造竿では心もとなかった。おまけにアイゴどころか、ウツボまでが捨て石の隙間から、グロテスクな顔を出しているのが見えていた。あんなものが食ってきたらたまらない、ヘビを釣るようなものだと、ひどく恐れた。

 アオリイカを釣っている人がいた。しかしチヌを釣る人はおらず、私にも釣れなかった。
 

 神明堤防
 

 七月中旬のことである。冬の間に見ておいた神明堤防に試し釣りに行った。出かけたのは夕方で五時を過ぎていた。


 思ったより水深があり、タナは3ヒロもあった。しかし固定ウキで十分で、ポイントも近くにした。リールは最近年期の入ってきた木ゴマである。ハリスは2号を使った。

 アタリは最初はなかったが、六時すぎゆっくりウキを沈めるアタリがあり、本年度初めての獲物が釣り上がった。23pである。初めての場所では、どこでもマキ餌をしてから三十分から五十分以内に食う場合が圧倒的に多かった。だから一時間もマキ餌をして食ってこなかったら、帰ろうと考えていたのである。しかし、見事に食った。喜ばしいことである。

 六時三十分にまた同型を追加し、七時三十分には納竿した。


 堤防に通じる道の入り口に住んでいる漁師が見にきて、ここはシラだけでなく、ツエもいると言っていた。何にしてもここで食うと確信した。開拓したのである。今度からここに来ようと思った。ひどく家から近いのが実に魅力に思われた。それにしても今年も何と暑いのだろう。
 

ある日の釣行記 1
 

 7月×日 晴れ時々曇 小潮 満潮10時46分 干潮16時30分(時刻は鳥羽港標準) 神明。12時30分〜19時。23〜26p、16枚。
 最初、堤防の根元の所で竿を出すが、浅すぎたので先日のポイントに移動する。
 13時20分、23p。2時前にまた同型。しかし、後が続かない。
 干潮前、16時より16時50分まで入れ食いとなる。アタリは一時止まったが、17時から再び食いが立ち、次々と竿を曲げる。18時に大型を掛け、チヌの引きとは違うので何だろうと思いつつ上がってきたのは、60pもあるウナギであった。
 ウナギが底で暴れたせいか、その後はアタリが止まり19時納竿。
 


 ハリは3号から5号、4号と交換したが、釣れたのはすべて3号だった。大きいと食い込みが悪い。
 タナは底とトントンのことが多かったが、5p程底を切ったときなど、小気味よい消し込みが見られた。食いの悪いときは、一度押さえ、二度押さえて、そのまま止まっている場合はここで合わせること。
 先日より活性化が感じられ、魚の抵抗は強かった。
 マキ餌をし始めてから、本日は五十分後第1枚目である。また食いの立ったのは、干潮前後、一時間で、十分間アタリが出なかったのは、潮止まりであったと考えられる。至極よくあるパターンで、定石通りの釣りであった。
 アタリのない時間帯でも、根気よく打ち返し、マキ餌を絶やさないこと。ジアイにより多くの群れを寄せる原因を作ること。


 エサ取りはフグのみ。本物の前には来ず、中休みに釣れてくる。

 ボラの魚影は見えるが、本日はマキ餌に寄らなかった。この魚が釣れず、本物が釣れるのは、実に珍しいことだが、大変結構なことである。

 

釣行記 18に続く